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海外旅行と放射線

2011年3月11日の東日本大震災によって引き起こされた、福島第一原子力発電所の事故は、大規模な放射能汚染という深刻な結果を残してしまいました。

そして私たちは、それまで専門家でなければ理解できなかったような、原子力や放射能に関する難しい知識も、ある程度認知する必要に迫られました。
「セシウム」、「ストロンチウム」、「ベクレル」、「シーベルト」などなど、あの日を境に、素人にはちんぷんかんぷんだった言葉が頻繁に飛び交うようになったのです。

汚染を食い止め、元通りにするには、数十年はかかり、放射性物質については数万年、数十万年という途方もない時間単位で保管しなければならないことも初めて知りました。
日本人は、ほぼ永遠にこれらと付き合っていかねばならない運命を背負ったといえるでしょう。

しかし、放射能や放射線といったものは、宇宙の中ではごく当たり前の自然現象であって、地球の表面に住む私たちは、そういったものにさらされにくい環境にあるだけなのです。

海外旅行で飛行機に乗って地球上を高く低く移動すれば、その影響も多少の濃淡を持って受けることになります。
ここではその一端を簡単にご紹介します。

放射能、放射線とは

まず、改めて「放射能」、「放射線」とは何かを中学、高校レベルのわかりやすさで学んでみましょう。

すべての物質は、原子からできています。
その原子は、陽子と中性子という粒子が集まった原子核が中心にあり、その周りを電子が回っています。
それらの粒子の集まる数によって、様々な元素になるわけで、陽子の数がそのまま原子番号になります。(1個なら水素、8個なら酸素など)

陽子はプラス、電子はマイナスの電荷(電気のパワー)を帯びていて、中性子は電荷はありません。
そして、安定な原子というのは、陽子、中性子、電子の個数が同じになっていて、原子全体としても表面的には電気を帯びていない状態です。

自然界には同じ元素でも、非常に極微量ですが、これらの粒子の数バランスが崩れているものが存在します。
原子のレベルでは、それを安定になるように持っていこうとする働きが出てきます。粒子の数を合わせるため、余分な粒子を放出して解決しようとします。

この時に、陽子と中性子を放出するとアルファ線、電子を放出するとベータ線になります。
また、粒子でなくエネルギーを電磁波として放出するケースがあり、それがガンマ線になります。

これらの放出される3形態を総称して「放射線」と呼びます。
そして、こういう放射線を出す物質の能力を「放射能」とよびます。
ですから「放射線を浴びる」とは言いますが、「放射能を浴びる」という言い方は正しくありません。

こういう放射線を発する物質が自然界にあるわけですから、普段私たちは生活の中でも非常に弱い放射線を常に浴びているわけです。

ところで、放出された陽子や中性子、電子などが隣の原子に衝突すると、もともとあった粒子が弾き飛ばされたりしてまたそこで不安定な状態を作り出します。
これが連鎖的に起こるのが「原子核分裂」で、この時に全体的に莫大なエネルギーが放出されます。

これを利用して、放出されたエネルギーを使い、水を沸騰させて高圧の蒸気を発生させ、それで発電タービンを回して電気を発生させるのが原子力発電です。

それを実現するためには、燃料として不安定な状態の物質が大量に必要になります。
そして地球上で容易に入手できるのがウランです。

ウランは陽子や中性子、電子の数が多く、またその数バランスが崩れたものの割合が多いために、自然の状態でも放射線を大量に発生させています。
地球のところどころに岩石に含まれた状態で存在し、それを掘り出して利用するわけです。

密閉した原子炉の中で核分裂を起こさせると、原子同士が激しく衝突を繰り返して、挙句の果てには中心核の粒子の数さえ変わるものも出ます。
そうなると、ウランは別の元素に変身してしまい、セシウムだのプルトニウムだのと呼ばれる元素が現われることになります。

なお「原子核分裂」とは逆に、別々の原子を無理やり合体させて、より強力なエネルギーを得ようというのが「原子核融合」です。
太陽のような恒星内部では自然に起こっている現象ですが、人類にとっては技術的にかなりの困難があり、これは現在はまだ実用化できていません。

このように、放射線は目に見えない素粒子レベルで起こる現象で、我々人体も原子で形作られている以上、放射線によって構成する安定な原子も飛んできた粒子で傷つけられる可能性があるわけです。
放射能が強力であればあるほど、そのリスクが高まり、細胞を構成する原子が変化して、結果として"がん"の発生あるいは細胞破壊という事態になってしまいます。

ベクレルとシーベルト

簡単に言えば、放射能の総量を表すのが「ベクレル」で、人間が浴びる放射線の強さが「シーベルト」ということになります。

福島原発から漏れた放射性物質が発散して土壌や水に混じった場合、それが放射能を持つことになります。
その発散量が「ベクレル」で、今回の事故では、億とか兆とか、さらには京などという途方もない数値の放射能の量が出てしまったとされています。

身近なところでは、野菜や魚などの食品に含まれる放射能の量として、許容されるベクレルの基準値が決められています。
放射能が体内に入ると、放射線の働きでDNAも変化させ、ガンが発生する働きが懸念されるわけで、特に被災地周辺の産品については厳重な測定がされているのです。

放射能を持つ物質があると、そこへ近づけばそこから発生する放射線を人間が浴びることになります。
その強さを表現する単位が「シーベルト」です。

放射線は自然の岩石などからも出ていますし、宇宙からも常に降り注いでいます。
つまり人間はいつの瞬間も、何らかのシーベルト値を持つ放射線を浴び続けているのです。
ただそれは全く自然なことであり、心配すべきものではない微量なものですが、医療のレントゲンやCTスキャン、MRIなどは、人工的に放射線を照射して撮影をするので、余分な放射線を浴びることになります。
人間の健康の観点からは、ある一定の期間を見てその累積値をできるだけ少なくするように過ごす必要があります。

これを脅かす要因が今回の原発事故です。
今回は巨大な自然災害に伴う事故でしたが、どんな原因であれ、原発を制御できなくなった時には人間に大いなる放射線による危機が容赦なく降りかかる、ということが明白になったわけです。

世界各地の放射線量

福島原発の事故で大量の放射性物質が飛散した原発の周辺地域は、依然として高い放射線量となって、住民の避難が長引いています。
そういうことから、海外の人で、いまだに東京をはじめ日本全体が放射能に汚染されて危険だと誤解をしている人が少なからずいます。

実際の値を見てみましょう。(2013.10.24、単位:1時間あたりのマイクロシーベルト)

福島市:0.22、仙台:0.05、東京:0.05、大阪:0.04、札幌:0.03、福岡:0.07
ソウル:0.14、北京:0.09、香港:0.23、シンガポール:0.17、ケアンズ:0.12
ミュンヘン:0.56、ローザンヌ(スイス):0.09、オスロ近郊(ノルウェー):0.28
ニューヨーク:0.11、ロサンゼルス:0.12、ホノルル:0.06

(出典はこちら「福島県放射能測定マップ」)

ご覧のように、日本各地はむしろ世界の中でも放射線量の低い地域です。
原発に近い福島市よりも高い主要都市は世界にはいくつもあるというのが実態なのです。

旅客機内の桁違いに高い放射線量

海外旅行で乗る旅客機は、高度10,000メートルの上空を数時間かけて移動します。
宇宙からの放射線は大気によって弱められますが、これほどの高度では大気も薄く、宇宙からの放射線をかなり強く浴びることになります。

その結果、機内での放射線量は、2〜5マイクロシーベルトという、実に地上での線量の数十倍から数百倍という高い値になっているのです。

このように旅客機を頻繁に利用する人は、福島地域のレベルを1桁越える放射線を浴びていることになります。

しかし旅客機のパイロットや乗務員は、私たちとは比べ物にならないほど年がら年中飛行機に乗り、おそらく相当量の放射線を浴びているはずなのですが、これらの人たちの健康被害が異常に高いという話は聞いたことがありません。
確かにリスクは高いのですが、要するにこのレベルであっても、人体への影響はまだ大きくない範囲であると認識してもいいのではないでしょうか。

とにかく放射線に対する恐怖心も、ある程度の知識を持って冷静に眺めることが大切なのだろうと思います。


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