フィレンツェとトスカーナ地方(イタリアの観光地 5)
イタリア半島の中央をアペニン山脈 (Appennino) が走り、その南西側のローマの北方にあたる地域は トスカーナ地方 (Toscana) と呼ばれ、豊かな田園風景とワインや郷土料理など、イタリア観光の魅力の多い地域です。
中心地のフィレンツェは15世紀にルネサンス芸術の花が開いた中心地で、この地域に点在する歴史的な古都もそれぞれが芸術的な景観を持っていて、その多くが世界遺産となっています。
ルネサンス期には、レオナルド・ダ・ビンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどなど、芸術の巨匠を続々と輩出した地域でもあります。
フィレンツェ
フィレンツェ (Firenze) は、ボローニャの南100km、アペニン山脈の南西麓にある人口35万人の町で、トスカーナ地方の中心地です。
市内をアルノ川 (Fiume Arno) が流れます。
15世紀にメディチ家が財力を背景にフィレンツェ共和国を建設し、ルネサンス文化が栄えた町です。
「屋根のない博物館」といわれ、当時の建築物や芸術作品が市内各所に残っています。
中心の旧市街全体が世界遺産に登録されています。
- ドゥオモ (Duomo)【世界遺産】
- 旧市街の中心にあるフィレンツェのシンボルの大聖堂です。
正式には「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂 (Basilica di Santa Maria del Fiore)」で「花の聖母寺院」の意です。
1296年に着工して完成は1461年、白、緑、ピンクの大理石を使った美しいゴシック様式です。
高さ112mの赤いドーム内に八角形の大クーポラがあり、天井のフレスコ画「最後の審判」が圧巻です。
- サン・ジョバンニ洗礼堂 (Battistero di San Giovanni)【世界遺産】
- ドゥオモの西側に建つ、フィレンツェの守護聖人ヨハネ(イタリア語でジョバンニ)に捧げられた14〜15世紀に建造の八角形の洗礼堂です。
外側の3つの扉にレリーフが施され、うち東の扉はギベルティが27年かけた傑作で、ミケランジェロが「天国の扉」と称えたものです。
現在はレプリカで、本物は「ドゥオモ美術館」にあります。
- ジョットの鐘楼 (Campanile di Giotto)【世界遺産】
- ドゥオモの南側にある高さ84mの鐘楼で、ジョットの設計で14世紀末に完成したものです。
414段の階段で展望台に登ることができます。
- ドゥオモ美術館 (Museo dell'Opera del Duomo)【世界遺産】
- ドゥオモの東にある美術館で、ドゥオモ、洗礼堂、鐘楼にあった美術品のオリジナルを収蔵しています。
ミケランジェロの「ピエタ」の展示でも有名です。
- サン・ロレンツォ教会 (Basilica di San Lorenzo)【世界遺産】
- ドゥオモの北西にある教会です。
4世紀創建の教会を、15世紀にメディチ家の援助でブルネレスキの設計で改築したものですが、存命中に完成せず未完のままになっています。
説教壇のドナテッロによるブロンズのレリーフが見ものです。
隣にメディチ家歴代の霊廟がある「メディチ家礼拝堂 (Cappelle Medicee)」があります。
- メディチ・リッカルディ宮殿 (Palazzo Medici Riccardi)【世界遺産】
- サン・ロレンツォ教会の東向かいにあるルネサンス様式の宮殿です。
15世紀に着工し、16世紀半ばまでメディチ家の邸宅でしたが17世紀にリッカルディ家の手に渡っています。
2階の礼拝堂のフレスコ画が見ものです。
- アカデミア美術館 (Galleria dell'Accademia)【世界遺産】
- ドゥオモの北北西0.5kmにある美術館です。
1784年の開館で、多数のミケランジェロの彫刻を中心に、13〜16世紀のフィレンツェ派の絵画を展示しています。
ミケランジェロの最高傑作といわれる「ダビデ像」が目玉です。
- サン・マルコ美術館 (Museo di San Marco)【世界遺産】
- アカデミア美術館の北にある美術館です。
建物は1299年創建の「サン・マルコ教会 (Chiostri di San Marco)」で、右側の修道院を美術館としたものです。
15世紀の修道僧フラ・アンジェリコのフレスコ画を展示しています。
- シニョーリア広場 (Piazza della Signoria)【世界遺産】
- ドゥオモ南0.5kmにある広場です。
中世以来、政治、芸術の中心地で、南側に「ベッキオ宮殿 (Palazzo Vecchio)」と、14世紀に集会所として使われた「ロッジア・デイ・ランツィ (Loggia dei Lanzi)」があります。
- ベッキオ宮殿 (Palazzo Vecchio)【世界遺産】
- シニョーリア広場南にあるゴシック様式の建物です。
1314年の創建で、フィレンツェ共和国の中央政庁が入っていました。現在は市庁舎として使われています。
宮殿の入口にミケランジェロの「ダビデ像」のレプリカがあり、実物は1873年に「アカデミア美術館」に移されています。
- ウフィッツィ美術館 (Galleria degli Uffizi)【世界遺産】
- ベッキオ宮殿の南隣にある世界屈指の美術館です。
建物は1565年完成のメディチ家の執務宮殿だったもので、「ウフィッツィ」は英語で「オフィス」の意です。
1737年にメディチ家の膨大なコレクションを公開したもので、古代ギリシャやローマからルネサンスまで幅広い作品を収蔵します。
ボッティチェリの「春」や「ビーナスの誕生」、ダ・ビンチの「三賢王の礼拝」や「受胎告知」、ミケランジェロ「聖家族」、ラファエロ「ひわの聖母」など多くの名作があります。
- ベッキオ橋 (Ponte Vecchio)【世界遺産】
- ウフィッツィ美術館の西にある、アルノ川に架かる橋です。
1345年建造の石造りの堅牢な橋で、16世紀頃から橋上の両側に金銀細工などの店が並び始め、現在はぎっしりと並んでいます。
さらに、1565年にベッキオ宮殿とピッティ宮殿をつなぐ屋根つき回廊が付けられ、2階建てのような構造になっています。
- ピッティ宮殿 (Palazzo Pitti)【世界遺産】
- ベッキオ橋の南にある全長205m、高さ36mの市内最大の宮殿です。
メディチ家と張り合っていたピッティ家が15世紀半ばに着工したもので、没落で工事は中断、16世紀にメディチ家が購入し19世紀に現在の姿になったものです。
1919年から「パラティーナ美術館 (Galleria Palatina)」として歴代大公のコレクションを公開しています。
- サンタ・クローチェ教会 (Chiesa di Santa Croce)【世界遺産】
- ベッキオ宮殿の東0.5kmにあるゴシック様式の教会です。
13世紀末に着工、本堂は1385年に完成しましたが、全体が完成したのは19世紀です。
フランチェスコ修道会の拠点で、ミケランジェロ、マキャベリ、ガリレオ・ガリレイなどの歴史的人物の墓や記念碑が多くあることで有名です。
また1852年に、漆喰で塗りこめられていた礼拝堂の壁から、ジョットの傑作壁画「聖フランチェスコの死」が復元されたことでも知られています。
- ミケランジェロ広場 (Piazzale Michelangelo)
- ベッキオ橋の南東1km、アルノ川の南側にある丘の上にある広場です。
フィレンツェの町が眺められる展望台として人気がある場所です。
旧市街から歩いて30分程度ですが、バスも運行されています。
ピサ
ピサ (Pisa) は、フィレンツェの西80km、アルノ川の下流にある人口10万人ほどの町です。
海から10kmの内陸にありますが、古代ローマ時代から軍港として栄え、中世からは地中海貿易も盛んになり、11〜13世紀が最盛期でした。
以後フィレンツェのメディチ家支配となり、ガリレオを輩出したピサ大学が置かれるなど、商業、学問の町として現在に至っています。
- ドゥオモ広場 (Piazza del Duomo)【世界遺産】
- 市街の北西部にある広場です。「奇跡の広場 (Campo di Miracoli)」とも呼ばれ、ピサのロマネスク建築を代表する建物が集まっています。
緑の芝生の敷地に、「ドゥオモ」、「鐘楼(ピサの斜塔)」、「洗礼堂」、「カンポサント」の4つがあり、全体が世界遺産に登録されています。
- ドゥオモ (Duomo)【世界遺産】
- 広場の中心にある大聖堂です。
1063年着工、1118年に完成、ファサード部分は13世紀の完成で、国内最古のロマネスク様式です。
奥行き約100m、幅約30mで、内部は戦利品としてシチリアの古代遺跡から運ばれたという68本の石柱が並びます。
14世紀のゴシック彫刻のある「説教壇」や、ガリレオが振り子の原理を発見したという「ガリレオのランプ」も見所です。
- 鐘楼(ピサの斜塔) (Campanile/Torre Pendente)【世界遺産】
- ドゥオモの東側にある円筒形の鐘楼です。
1173年に着工し、軟弱な地質による地盤沈下で工事中から傾き始めましたが何とか1350年に完成しました。
高さ約55mの8層で約5.5度傾き、内部には294段の螺旋階段があります。
1990年から2001年まで公開を中止して世界各国の建設会社の協力で傾斜防止の工事を行いましたが、根本的な解決にはなっていないようです。
「世界7不思議」のひとつ、またガリレオが物体落下の実験を行った話も有名です。
- 洗礼堂 (Battistero)【世界遺産】
- ドゥオモの西側にある白い大理石の円筒形の建物です。1152年の着工で、完成は14世紀です。
直径35mあり、下半分は列柱とアーチで装飾されたロマネスク様式、上半分は尖塔群で装飾されたゴシック様式という珍しいものです。
- カンポサント (Camposanto)【世界遺産】
- ドゥオモの北側にある大理石の壁で囲まれた長方形の建物です。
13世紀後半に建築が始まったもので、内部はロの字に回廊があり、中央は美しい中庭になっています。
元来は墓所で、回廊の壁にはフレスコ画が描かれ、多くの美術品もありましたが、第二次大戦の戦火で焼失してしまいました。
シエナ
シエナ (Siena) は、フィレンツェの南60kmにある人口6万人ほどの町です。
伝説では、雌狼に育てられたロムルスとレムスの兄弟は、権力争いでロムルスはレムスを殺してローマを建設し、レムスの息子たちがシエナを造ったといわれています。
そのため、市内には雌狼の像が至る所にあります。
中世は政治的にフィレンツェと対立を繰り返し、町の建物もフィレンツェのロマネスクに対し、シエナはゴシック様式を採りました。
黄褐色の建物が並ぶ街並みは「シエナ色」と言います。
- カンポ広場 (Piazza del Campo)【世界遺産】
- 市街の中心にある世界一美しいといわれる広場です。
1347年の完成で、扇が広がるようにレンガが敷き詰められ、扇の要に向かってすり鉢状に傾斜しています。
一番高いところには、1419年建造で彫刻で飾られた「ガイアの泉 (Fonte Gaia)」があります。
また、広場の南東側には「ブッブリコ宮殿」と「マンジャの塔」があります。
毎年7月2日と8月16日に行われる荒馬競馬が呼び物の「パリオ祭」が有名です。
- プッブリコ宮殿 (Palazzo Pubblico)【世界遺産】
- カンポ広場に面して建つゴシック様式の建物です。
1342年創建で、当初はシエナ政庁舎として使われ、現在は市庁舎となっています。
向かって左隣には、1348年に造られた高さ102mの鐘楼「マンジャの塔 (Torre del Mangia)」があります。
- ドゥオモ (Duomo)【世界遺産】
- カンポ広場の西にある大聖堂です。
9世紀に建てられた教会に、14世紀まで増改築が繰り返され、正面ファサードは下部がロマネスク様式、上部がゴシック様式となっています。
床一面の宗教画や、13世紀のピサーノらによる説教壇の彫刻、地下にある「サンジョバンニ洗礼堂 (Batistero San Giovanni)」など多くの見所があります。
- ドゥオモ美術館 (Museo dell'Opera Metropolitana)【世界遺産】
- ドゥオモの東にあるドゥオモ内部にあった美術品を展示する美術館です。
14世紀に第二のドゥオモを建設しようとして挫折した建物を使っています。
「シエナの宝」といわれるドゥッチョ作の絵画「荘厳の聖母」をはじめ、13〜16世紀の絵画や彫刻を展示しています。
トスカーナ地方各地
- ルッカ (Lucca)
- ピサの北北東20kmにある人口8万人の町です。
紀元前2世紀からの歴史を持ち、中世には小さな都市国家として周辺の強国に並んで独立していた時期もあります。
町を囲む全長4kmの城壁は上が遊歩道として整備されています。
市内では「サン・ミケーレ・イン・フォーロ教会 (Chiesa di San Michele in Foro)」、「ドゥオモ (Duomo di San Martino)」などが見所です。
- サン・ジミニャーノ (San Gimignano)【世界遺産】
- シエナの北西30kmにある、城壁に囲まれた小さな町です。
11〜13世紀に貴族が教皇派、皇帝派に分かれて塔の建設競争が起こり、東西350m、南北700mの町の中に72本もの塔が乱立しました。
後に老朽化で多くは壊されましたが、現在も14本が残されています。
- アレッツォ (Arezzo)
- フィレンツェの南東70km、アルノ川沿いにある人口9万人ほどの町です。
古代ローマ以前のエトルリア時代からの歴史を持ち、中世には都市国家のひとつとして繁栄しました。
ルネサンス時代の文化財がいくつも残っています。
16世紀のゴシック様式の聖堂「ドゥオモ (Duomo San Donato)」、聖十字架伝説のフレスコ画が有名な「サン・フランチェスコ教会(Basilica di Scn Francesco)」などが主なスポットです。
毎月第1日曜の「骨董市(Fiera Antiquaria)」が有名で、金細工の産地としても知られています。
- モンタルチーノ (Montalcino)
- シエナの南南東40km、ブドウ畑の広がる田園地帯の高台にある町です。
赤ワインの「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ (Brunello di Montalcino)」の産地として有名で、ワインを売る店も多くあります。
中世にシエナ共和国の重要な都市として栄えましたが、1555年の共和国終焉の際に650家族が最後の抵抗を示した歴史を持ち、当時の城塞や宮殿、教会などが残っています。
- ピエンツァ (Pienza)【世界遺産】
- シエナの南東50kmの丘の上にある小さな町です。
1458年にローマ教皇になった当地出身のピウス2世が、自分の理想郷として都市造りをしたものです。
開始から6年後に死去して未完成に終わりましたが、中心の「ピオ2世広場 (Piazza Pio II)」の周りに大聖堂や市庁舎、司教館などの他、ピウス2世を輩出した一族の宮殿「ピッコローミニ館 (Palazzo Piccolomini)」などが残っています。
- モンテプルチアーノ (Montepulciano)
- ピエンツァの東10km、海抜600mほどの丘の上にある町です。
中世の自由都市で、城壁に囲まれ、中心の「グランデ広場 (Piazza Grande)」の周りに大聖堂や市庁舎など15〜16世紀の建物がそのまま残っています。
また「ワインの王様」といわれる赤ワインの「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノ (Vino Nobile di Montepulciano)」の産地で、カンティーナ(酒蔵)見学ができます。
- オルビエート (Orvieto)
- シエナの南東100km、平野の中に屹立する標高約320mの絶壁で囲まれた台地の上にある町です。
国鉄の駅からはケーブルカーで登れます。3千年前にはエトルリア人が住んでいたといわれ、1527年にローマ略奪から逃れてきた教皇クレメンス7世が逃げ込んだ町です。
1290年に着工し17世紀初めに完成した「ドゥオモ (Duomo)」が有名です。
またクレメンス7世が水源確保のため造った「サン・パトリツィオの井戸 (Pozzo di San Patrizio)」は直径13mの円柱の小屋のような建物が地上にあり、深さ62mの底まで螺旋階段で降りることができます。
またエトルリア時代に造られたという「地下都市 (Città Sottoterra)」があり、見学ツアーがあります。
- チビタ・ディ・バーニョレージョ (Civita di Bagnoregio)
- オルビエートの南12kmにあるバーニョレージョの町から東へ約2km離れたところにある古代の城塞都市です。
崖に囲まれた岩山の上に、周囲わずか500mほどの城壁に囲まれた都市があり、その景観から「天空都市」と呼ばれています。
約2500年前にエトルリア人によって建設されたもので、現在も数十人の住人がいます。
しかし、風雨による浸食が進み、外縁部の崩壊もしつつあるということで、「死に行く町」とも呼ばれています。
町へ入るには、斜面に取り付けられた300mの長い橋を歩いていきます。車は入れず、物資はここをバイクで運んでいるということです。
狭い城壁内は、1本のメイン通りの両側に教会や司祭の宮殿をはじめ市民の住居など、中世の建物が残っています。
ホテルやレストランもあり、滞在も可能です。
- ペルージャ (Perugia)
- シエナの東南東100kmにある丘陵地にある人口15万人ほどの町です。
紀元前6世紀頃にはエトルリア人の街があったといわれ、丘の上のほうに旧市街、その下に新市街が広がって狭い坂道が多い町です。
中心にある「11月4日広場 (Piazza IV Novembre)」は国内屈指の美しい広場といわれ、中央に13世紀にピサーノ作の「大噴水 (Fontana Maggiore)」、周囲には「大聖堂 (Catedrale)」、「プリオーリ宮殿 (Palazzo dei Priori)」などがあります。
1998年にサッカーの中田英寿選手が移籍・活躍して一躍知られるようになりました。
- アッシジ (Assisi)【世界遺産】
- ペルージャの東20km、標高420mほどの丘の上にある町で、東のスバシオ山 (Monte Subasio) で産するバラ色の石で造られた城壁や建物が美しい景観を作っています。
13世紀にカトリックのフランシスコ会を創設した聖フランチェスコの聖地で、多くの巡礼者が訪れます。
「サン・フランチェスコ聖堂 (Basilica Patriarcale di San Francesco)」は斜面に上下2つの聖堂があり、下堂に聖フランチェスコの遺体を安置し、上堂にはジョットのフレスコ画の大作「聖フランチェスコの生涯」があります。
イタリアの観光地