ミラノからベネチア(イタリアの観光地 2)
イタリアの北部は、西から東にポー川が流れ、ロンバルディア平原あるいはポー平原と呼ばれる広い平野が形成されています。
特にポー川の北側には、ミラノをはじめ中世からの歴史を持つ小都市が多く点在します。
東の端はアドリア海に面し、その奥まったベネチア湾沿いにベネチア(ベニス)があります。
この地域は、歴史的にもイタリアの中では先進的な地域で、一般に陽気と言われるイタリア人気質とは異なって、北部ヨーロッパ的な質実剛健な職人気質が見られます。
ミラノ
ミラノ (Milano) は、ロンバルディア平原の西寄りにある人口130万人のイタリア北部の中心都市です。
古くは西ローマ帝国の首都、中世にはフランスやオーストリアの支配下にあった時期もあります。
イタリアの中でも洗練された町で、ミラノ・ファッションの発信地としても知られています。
- ドゥオモ (Duomo)
- ミラノ中心部にある、世界最大のゴシック様式の大聖堂です。1386年にビスコンティ公の命で着工し、完成は5世紀を経た1887年です。
奥行き158m、高さ108m、最大幅93mで、全体に135本もの尖塔が林立し、外壁には3千を越える聖者の彫刻が施されています。
奥にある新約聖書をテーマにしたステンドグラスも有名です。
階段とエレベーターで屋上に出ることもできます。
- ガレリア・ビットリオ・エマヌエーレ2世 (Galleria Vittorio Emanuele II)
- ドゥオモ前のドゥオモ広場 (Piazza del Duomo) から、北200mのスカラ広場 (Piazza della Scala) まで続くアーケードです。
1877年に完成し、高さ32mでアーチ形のガラス天井になっています。
通り中ほどに十字の交差点があり、天井にフレスコ画が描かれています。床も美しいモザイク模様の大理石が敷き詰められています。
通りはレストラン、カフェ、ブティックが並び、いつも賑わっています。
- スカラ座 (Teatro alla Scala)
- スカラ広場に面して建つイタリア・オペラ劇場です。
1778年完成のネオ・クラシック様式の建物で、ロッシーニやプッチーニなどの数々の名作が初演されています。
第二次大戦の爆撃で全壊し、1946年に再建、2002年から2004年末まで大規模な改修が行われました。
スカラ座の歴史的な資料を展示する博物館も併設しています。
- アンブロジアーナ美術館 (Pinacoteca Ambrosiana)
- ドゥオモの西0.3kmにある美術館です。
17世紀に枢機卿、大司教を務めたフェデリコ・ボロメオが図書館と美術学校を兼ねた美術館として創立したものです。
美術館にはダ・ビンチ「音楽家の肖像」をはじめ、カラバッジョ、ボッティチェリ、ラファエロなどイタリア絵画の秀作があります。
図書館にもガリレオの直筆原稿など貴重な資料があります。
- ブレラ美術館 (Pinacoteca di Brera)
- スカラ座の北0.5kmにある美術館です。
17世紀に美術学校として設立され、18世紀末のナポレオンによる美術品押収政策でコレクションが増え、1882年に国立の絵画館になりました。
中世から近代のイタリア絵画を展示し、マンティーニャ「死せるキリスト」、ラファエロ「聖母マリアの結婚」が有名です。
- スフォルツェスコ城 (Castello Sforzesco)
- ドゥオモ北西1kmにある城塞です。
跡継ぎが途絶えたビスコンティ家の居城を、ミラノ公スフォルツァが引き継いで1466年に改築したものです。
城内は考古学博物館や美術館になっており、ミケランジェロが死の直前まで彫り続けて未完成のままの「ピエタ像」が残っています。
- サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会 (Santa Maria delle Grazie)【世界遺産】
- スフォルツェスコ城の西0.7kmにある教会で、15世紀創建の赤いレンガ造りのルネサンス様式です。
左隣にある旧修道院食堂の中の壁に描かれた、ダ・ビンチの傑作「最後の晩餐」が非常に有名です。
傷みがひどかったために20年余の修復作業を行い、1999年から全面公開されています。
- レオナルド・ダ・ビンチ科学技術博物館 (Museo Nazionale della Scienza e della Tecnologia Leonardo da Vinci)
- サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の南西にある博物館です。
ダ・ビンチが遺した数々の設計図を基に作られた自動車、列車、飛行機などの模型を展示しています。中世から近代までの科学資料も展示しています。
ロンバルディア平原各地
- ベルガモ (Bergamo)
- ミラノ北東40kmの町です。
中世から自治都市として生き抜いた町で、平野部の新市街「ベルガモ・バッサ (Bergamo Bassa)」と、丘の上の旧市街「ベルガモ・アルタ (Bergamo Alta)」に分かれます。
見所はベルガモ・アルタに集中し、細い路地に中世の雰囲気を残す街並みが広がっています。
「ベッキア広場 (Piazza Vecchia)」や「ドゥオモ広場 (Piazza Duomo)」周辺に16世紀頃からの旧市庁舎や教会、礼拝堂などが集まっています。
- パビア僧院 (Certosa di Pavia)
- ミラノの南30kmの町パビア (Pavia) の北8kmの郊外にある壮麗な僧院です。
ビスコンティ家の霊廟として1396年に着工しましたが、1452年に修道院、1473年に付属の教会が造られました。
正面の教会のファサードは多くの彫刻やフレスコ画で飾られていますが、上の3分の1は未完成といわれます。
- クレモナ (Cremona)
- ミラノの南東80kmにある小さな町です。
11〜14世紀まで自由都市で、町の中心のコムーネ広場 (Piazza del Comune) には、高さ111mの鐘楼「トラッツォ (Torrazzo)」や聖堂「ドゥオモ (Duomo)」など当時の建造物があります。
この町は16〜18世紀にストラディバリウスをはじめとするバイオリンの名器を生んだことで知られ、現在も工房があります。
また、市内には2013年にオープンした「バイオリン博物館 (Museo del Violino)」があり、ストラディバリウスなど古いバイオリンの展示室やコンサートホールがあります。(旧「ストラディバリ博物館 (Museo Stradivariano)」がこちらに移っています。)
- マントバ (Mantova)【世界遺産】
- ミラノの東南東140km、ベローナの南南西40kmのロンバルディア平原中央部にある小さな町です。
ポー川の支流ミンチョ川 (Fiume Mincho)の作る湖に三方を囲まれ、14〜17世紀にはマントバ公国の首都で、当時の繁栄を示す建築物が多く残っています。
旧市街の中心に16世紀の聖堂「ドゥオモ (Duomo)」やマンテーニャのフレスコ画が残る「ドゥカーレ宮殿 (Palazzo Ducale)」あり、町の南寄りには夏の離宮「テ宮殿 (Palazzo del Te)」があります。
町全体が2008年に世界遺産に登録されました。
- ガルダ湖 (Lago di Garda)
- ミラノの東120kmにあるイタリア最大の湖で、琵琶湖の半分強の面積を持ちます。
南北50kmで、北部は険しい断崖が続く荒々しい地形、南部は湖畔にオリーブ畑やレモン林の広がる穏やかな地形の二つの顔を持ちます。
拠点の町は南西端のデセンツァーノ (Desenzano)で、湖全体をめぐる遊覧船が出ています。
デセンツァーノの東5kmには、南岸から北に細く突き出た岬の町シルミオーネ (Sirmione)があり、13世紀の城塞やローマ時代の遺跡が残されています。
- ベローナ (Verona)【世界遺産】
- ミラノの東150kmにある人口25万人の町です。交通の要衝としてローマ時代から栄え、12世紀に都市国家となりましたが、15〜18世紀にはベネチア共和国の支配下になりました。
歴史的な建造物が残り、旧市街全体が世界遺産に登録されています。また、シェークスピアの「ロメオとジュリエット」の舞台となった地でもあります。
町の中心には、中世の市庁舎や裁判所など当時の行政中心地「シニョーリ広場 (Piazza dei Signoli)」と、古くから市が立った「エルベ広場 (Piazza del Erbe)」が隣接しています。
このすぐ南に、13世紀建造でバルコニーのあるジュリエットの家のモデルになったカプレティ家の邸宅があり、「ジュリエットの家 (Casa di Giulietta)」として公開されています。
この他、市内には紀元前1世紀の円形競技場「アレーナ (Arena)」、14世紀の領主スカラ家代々の墓で美しいゴシック様式の「スカラ家の廟 (Arche Scaligere)」、スカラ家の城塞跡「カステルベッキオ (Castelvecchio)」などのスポットがあります。
- ビチェンツァ (Vicenza)【世界遺産】
- ベローナの東北東50kmの人口約10万人の町です。
ベネチア共和国支配下の16世紀に、ルネサンス期の天才建築家アンドレア・パッラディーオと弟子たちが39もの建造物を建て、そのすべてが世界遺産になっています。
町の中心にある「シニョーリ広場 (Piazza dei Signori)」に面する「バシリカ (La Basilica Palladiana)」をはじめ、「オリンピコ劇場 (Teatro Olimpico)」、「バルバラン宮殿 (Palazzo Barbaran da Porto)」、「キエリカーティ絵画館 (Museo Civico-Pinacoteca Palazzo Chiericati)」、「ビラ・ロトンダ (La Rotonda)」などが主なスポットです。
- スクロベーニ礼拝堂 (Cappella degli Scrovegni)
- ビチェンツァ南東30km、人口約20万人の中世の雰囲気が残る町パドバ (Padova) にある礼拝堂です。
1305年創建で、内部にキリストの生涯を描いたジオット作のフレスコ画があることで有名です。
受胎告知日の3月25日には、窓からさす光が「最後の審判」に描かれた聖母マリアの頬を照らすといわれています。
なおパドバの町は、1231年に当地で没した聖アントニオを祀る聖地として多くの巡礼者が訪れます。
ベネチア(ベニス)
ベネチア (Venezia) は、イタリア北東部、アドリア海の一番奥のベネタ潟 (Laguna Veneta) にできた島々にある人口27万人ほどの町で、全体が世界遺産に登録されています。
本島は東西5km、南北3kmでほぼ全体が市街になっており、中央を逆S字形に「大運河 (Canal Grande)」が流れ、島の隅々まで細い運河が網の目のように走っています。
本土とは4km離れ、鉄道と自動車道が走るリベルタ橋 (Ponta della Liberta) が本島をつないでいます。
自動車は橋を渡ったところの駐車場までで、島内の移動は徒歩か舟に限られます。
6世紀頃湿地帯だった当地に異民族の侵入で避難した住民が定住したのが始まりで、以後貿易都市へ発展し、13世紀には地中海東部最強の海軍国家になりました。
15世紀から衰え始め、ナポレオン支配を経て1866年にイタリア王国に併合されています。
なお、地名表記は発音に忠実ならば「ヴェネツィア」で、「ベニス / ヴェニス (Venice)」は英語の表記です。
島全体の標高は海面に近いため、近年は地球温暖化の影響もあって、高潮による市街の浸水が年に数回発生しています。
- サン・マルコ広場 (Piazza San Marco)【世界遺産】
- 本島南部にある市の中心となる広場です。
3方向を大理石の回廊で囲まれ、東側の向かいにはサン・マルコ寺院やドゥカーレ宮殿が並び、ナポレオンが「世界で最も美しい広場」と評したといわれます。
隅には高さ96mの鐘楼が建ち、屋上から町が一望できます。
- サン・マルコ寺院 (Basilica di San Marco)【世界遺産】
- サン・マルコ広場の東側にある大寺院です。
832年にアレキサンドリアから運ばれた聖マルコの遺体を安置するために建立された寺院です。
壮麗なロマネスク・ビザンチン様式で、黄金で飾られたモザイク壁画や、色大理石、宝石、七宝など当時の富と繁栄を象徴する造りになっています。
- ドゥカーレ宮殿 (Palazzo Ducale)【世界遺産】
- サン・マルコ寺院の南隣にあるゴシック様式の宮殿です。
9世紀の創建で当初はベネチア共和国政庁でした。現在の建物は15世紀までに改築されたものです。
壁面が白とピンクの大理石で、内部は世界最大の油絵といわれるティントレットの「天国」がある「大評議会の間」をはじめ、いくつかの部屋が見学できます。
- ため息の橋 (Ponte dei Sospiri)【世界遺産】
- ドゥカーレ宮殿から運河を隔てた牢獄に渡るための橋です。
宮殿の裁判所で死刑を言い渡された囚人が、現世との別れを告げながらため息をついたことに由来します。
外観は大理石で美しく見えますが、内部は質素な木造です。
- サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会 (Santa Maria della Salute)【世界遺産】
- サン・マルコ広場の南西0.5km、大運河の河口南側にあるバロック様式の教会です。
1630年に流行したペストの終息を聖母マリアに祈願して建てられたもので、聖具室にあるティントレットの秀作「カナの婚礼」が見所です。
- アカデミア美術館 (Galleria dell'Accademia)【世界遺産】
- サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会の西0.5kmにある美術館です。
1750年に美術学校の付属美術館として発足したもので、14〜18世紀のベネチア派やトスカーナ派の絵画の傑作を収蔵します。
正面の「アカデミア橋 (Ponte Accademia)」は、大運河に架かる3橋中唯一の木製の橋です。
- リアルト橋 (Ponte di Rialto)【世界遺産】
- サン・マルコ広場北0.5km、島の中央部にある大運河に架かる橋です。
1591年に完成の市内最古の大理石のアーチ橋で、横から見ると「ヘ」の字のような山型で通路は階段になっています。
橋の上には土産物屋が並び、運河を行きかうゴンドラが眺められる観光客の集まるスポットです。
- カ・ドーロ (Ca'd'Oro)【世界遺産】
- リアルト橋の北西、大運河の北岸にあるゴシック様式の建物です。かつては黄金に塗られた貴族の館で、「黄金の館」と呼ばれています。
内部は絵画やタペストリーなどを展示する「フランケッティ美術館 (Galleria Franchetti)」となっています。
- サン・ジョルジオ・マッジョーレ教会 (Chiesa di San Giorgio Maggiore)【世界遺産】
- サン・マルコ広場の南、約0.5km海を隔てたサン・ジョルジオ・マッジョーレ島にある教会です。
水面に浮かぶように見える美しい姿から「水辺の貴婦人」といわれます。
ベネチア出身のルネサンス期の画家ティントレットの傑作「マナの収拾」、「最後の晩餐」があります。
- ムラーノ島 (Murano)【世界遺産】
- 本島の北1.5kmに浮かぶ島です。ベネチアン・グラスの産地として有名で、100を越える工房があります。
1291年にガラス作りの秘法流出を防ぐため、ベネチアのガラス工場と職人を全てこの島に集めたのが始まりです。
ローマ時代から現代に至る4千点の作品を展示する「ベネチアン・グラス博物館 (Museo Vetrario di Murano)」があります。
- ブラーノ島 (Burano)【世界遺産】
- 本島の北東9kmにある島です。
漁師たちが我が家を見分けるために、鮮やかに色を塗った家々が運河沿いに並びます。
「空中編み」という独特な技法によるレース編みでも有名で、工房の他に、レース編みの技法や道具を紹介する「レース博物館 (Museo del Merletto)」があります。
- リド島 (Lido)【世界遺産】
- 本島の南東に防波堤のように横たわる南北12kmの細長い島です。
20世紀から開発されたリゾート地で、美しい砂浜に高級ホテルやレジャー施設があります。
トーマス・マンの小説「ベニスに死す」の舞台で、ベネチア映画祭の開催地でもあります。
イタリアの観光地