モスクワ周辺(ロシアの観光地 1)
モスクワ (Москва / Moscow) は、ロシア西部のヨーロッパ地域にある、人口約1200万人を擁する首都です。
一番近いベラルーシとの国境まで約450kmの位置です。
12世紀に砦ができ、14世紀にモスクワ大公国の中心地となりました。
1712年にサンクトペテルブルクに首都は移されましたが、1918年に再びソビエト連邦の首都として戻されて現在に至っており、ロシアの政治経済文化の中心地となっています。
町の中心をモスクワ川 (Река Москва) が蛇行して流れ、クレムリンを中心に同心円状の通りと放射状の通りで町が造られています。
クレムリン
クレムリン (Кремль / Kremlin) は、市街の中心部、モスクワ川の北岸にあるかつてのロシア帝国の宮殿です。
1156年に造られた砦が最初で、15世紀末にイワン3世が現在のような城塞に拡充し、時代とともに手を加えてきたものです。
三角形をした 26ha の敷地を約2.2kmの城壁が囲み、内部には多くの宮殿や寺院があり、全体が世界遺産に登録されています。
帝政時代は皇帝の居城でしたが、ソ連時代は共産党の中枢が置かれ、現在はロシアの大統領府と大統領官邸が置かれています。
入場ができるのは、西側の「トロイツカヤ塔 (Троицкая Башня / Trinity Tower)」か、南西側の「ボロビツカヤ塔 (Боровицкая Башня / Pine-Grove Tower)」の2つの門です。
なお、クレムリンはロシア語の「城塞」の意味ですが、英語やフランス語で「クレムリン」、ロシア語の正式な読みは「クレムリ」です。
- スパスカヤ塔 (Спасская башня / Spasskaya tower)【世界遺産】
- クレムリンに面する赤の広場側にある、クレムリンのシンボル的な塔です。高さ71mで、1491年に建設されました。
直径約6mの時計が四面に取り付けられていて、時計塔のようにも見えます。
格式のある塔で、公用の入り口として政府要人、外国要人だけが通ることができます。
- 旧兵器庫 (Арсенал / Arsenal)【世界遺産】
- トロイツカヤ塔を入った北側にある2階建ての建物で、18世紀初めにピョートル大帝の命で造られたかつての兵器庫です。
建物の周囲にナポレオン軍から奪った多くの大砲が飾られています。
内部は警備隊の兵舎として使われ、公開はしていません。
- クレムリン大会宮殿 (Государственный Кремлевский Дворец / Kremlin Palace of Congresses)【世界遺産】
- 旧兵器庫の南向かいにある近代的建物です。
1961年の完成で、こけら落としの共産党大会では、フルシチョフ首相がスターリン批判を行い、レーニン廟からスターリンの遺体を追い出す決定をした歴史的な場所です。
現在は国際会議やボリショイ劇場の第二ステージに使われています。
- サボールナヤ広場 (Соборная Площадь / Sobornaya Square)【世界遺産】
- クレムリンのほぼ中央にある広場で、周りをいくつもの古い聖堂で囲まれており、「聖堂広場」の意です。
帝政時代には戴冠式や集会など、国家行事がこの広場で行われました。
- ウスペンスキー大聖堂 (Успенский Собор / Assumption Cathedral)【世界遺産】
- サボールナヤ広場の北側にある聖堂です。5つの金色のドームを持ち、フレスコ画やイコンで飾られています。
14世紀に建造された教会が地震で崩壊し、1479年にイタリアの建築家フィオラバンティを招いて再建したものです。
16世紀からは皇帝の戴冠式が行われ、ロシア正教の中心寺院となり、現在は大統領就任のロシア正教会による祝福が行われます。
- イワン大帝の鐘楼 (Колокольня Ивана Великого / Ivan the Great Bell-Tower)【世界遺産】
- サボールナヤ広場の東側にある金色のドームを持つ塔です。
1508年の建造で、1543年に増築され、81mの高さは当時国内で最も高い建物で、これを超える建物を造ることは許されなかったということです。
21個の鐘が付いています。鐘楼の前には重さ200tの「鐘の王様」、裏手には重さ40tの「大砲の王様」という中世の鋳造物が置かれています。
- 大クレムリン宮殿 (Большой Кремлевский Дворец / Great Kremlin Palace)【世界遺産】
- クレムリンの南西部にある、10年の歳月をかけて1849年に完成した大宮殿です。
幅125m、奥行き63mあり、外観は3階建て、内部は2階建てです。1階に皇帝の私室、2階に国事行事に使われたいくつかのホールがあります。
内部はかつて19世紀の絵画や彫刻、調度をふんだんに取り入れた豪華なものでしたが、一部は1939年にソ連の最高会議の議場として改造されています。
現在も外国要人や国家元首との会見に用いるため一般公開はしていません。
- 武器庫 (Оружейная Палата / Armoury)【世界遺産】
- 大クレムリン宮殿の西側にあるロマノフ王朝歴代皇帝の宝物を展示する博物館です。
16世紀に武器の製造や保管の倉庫が建てられ、18世紀初めに宝物館となり、1851年に現在の建物が建造されたものです。
中世の武器から宮廷衣装などの他、多くの金銀細工や王冠をはじめ財宝が展示されています。
モスクワ市内
- 赤の広場 (Красная Площадь / Red Square)【世界遺産】
- クレムリンの北東側の城壁前にある石畳の広場です。
幅700m、奥行き130mの広大な広場で、15世紀頃に露店市場の立つ広場だったものが、19世紀に現在のように整備されたものです。
中央の城壁のそばに「レーニン廟」があり、広場の北東側には国営百貨店の「グム (ГУМ)」、南東側に「聖ワシリー寺院」、北西側に「国立歴史博物館」があります。
ソ連時代は巨大なマルクス、レーニンの肖像画を掲げて盛大な軍事パレードが行われ、西側諸国はクレムリンの城壁に並ぶ指導者たちの序列を見て権力の変化を注視していました。またソ連末期の1987年に、当時の西ドイツの青年が操縦するセスナが強行着陸して、簡単に侵入を許してしまった国防関係者に大きなショックを与えた事件もありました。
なお名称の「赤い(クラスナヤ)」という語は、「美しい」という古語から意味が変化してきたもので、共産主義のシンボル色から来たものではないそうです。
- レーニン廟 (Мавзолеят на Ленин / Lenin's Mausolem)
- 赤の広場の中央、クレムリンの正面にあるロシア革命の指導者レーニンの遺体を安置する廟です。
1924年の死去直後に遺体を防腐剤で永久保存化し、1930年に現在の赤褐色の花崗岩の廟が完成して地下に安置されました。現在もガラスに覆われて遺体を見ることができます。
エリツィン初代大統領によるソ連解体以後、共産主義時代の名残として神格化した保存をやめて、墓地に埋葬しようとする動きがあり、現在も賛否両論があるということです。
- 国立歴史博物館 (Государственный Исторический Музей / State Historical Museum)
- 赤の広場の北西側にある博物館です。ロシアで最大級の博物館で、1883年開館の4つの塔を持つ赤レンガ造りの建物です。
石器時代からロシア革命前までのロシアに関する膨大な歴史資料を展示しています。
- 聖ワシリー寺院 (Собор Василия Блаженного/ St.Basil's Cathedral)
- 赤の広場の南東側にある教会です。
9つの異なった色と模様を持つネギ坊主形キューポラが特徴のカラフルな建物です。
「雷帝」と称されるイワン4世の命で1560年に完成したもので、あまりの美しさに感動した雷帝が二度と同じような建物が造れないように、二人の設計者の目をくりぬいたという逸話が残っています。
最も高い中央の塔は高さ47mあります。
- ボリショイ劇場 (Большой Театр / Bolshoy Theater)
- 赤の広場の北にある、オペラやバレエのための芸術劇場です。
1776年の創立で、現在の建物は火災のために1856年に再建されたものです。専属のオーケストラやバレエ団を持ち、頻繁に公演を行っています。
- プーシキン美術館 (Музей Изобразительных Искусств им. А. С. Пушкина / Pushkin Museum of Fine Arts)
- クレムリンの南西にある美術館です。
1912年にモスクワ大学付属の美術研究所として開設したのが最初で、古代ギリシャ、ローマの遺物から近代絵画まで2千点を収蔵し、モスクワで最大の西洋美術を展示する美術館です。特にモネ、ルノワール、マチスなどの印象派の傑作が見ものです。
なお名称のプーシキンはロシア最大の詩人ですが、この美術館との関係はなく、1937年の彼の没後100年に記念として冠されたものです。
- トレチャコフ美術館 (Третьяковская Галерея / Tretyakov Gallery)
- クレムリンの南0.5kmにある美術館です。
実業家のトレチャコフ兄弟が1892年のコレクションを寄贈して発足した美術館で、中世以後のロシア作家の作品を中心に展示しています。
6万点に及ぶおびただしい作品を収蔵し、イコンのコレクションは世界最大といわれます。
- ノボデビッチ修道院 (Новодевичий Монастырь / Novodevichy Convent)
- クレムリン南西2kmのモスクワ川畔にある修道院です。
1524年に要塞として建てられたのが最初で、そのため周囲を長さ1kmの堅固な城壁で囲まれています。
中央に金色、その周りに4つの青いネギ坊主形のキューポラを持つ塔がある「スモレンスキー聖堂」を中心に、いくつもの建物が集まっています。
墓地にはチェーホフやプロコフィエフなど各界著名人が葬られています。
- バラビョービの丘 (Воробьевы Горы / Vorobyevi Hills)
- クレムリンの南西3kmにある丘で、モスクワ市内を一望できる展望台です。
ソ連時代には「レーニンの丘」と呼ばれていました。
黄金の環
黄金の環 (Золотое Кольцо / Golden Ring) は、モスクワとその北東約300kmを流れる大河、ボルガ川 (Волга / Volga) までの間に、楕円形のルート上に連なる中世ロシアの面影を残す古都群です。
それぞれが10〜12世紀頃の都市国家の首都で、18世紀頃までに建造されたロシア正教の教会や修道院などがあり、「野外博物館」ともいわれます。
「黄金の環」という名前は、ソ連政府が観光宣伝と政治的プロパガンダで1974年から使ったもので、現在は定着しています。
- トロイツェ・セルギエフ修道院 (Троице-Сергиева Лавра / The Trinity Lavra of St. Sergius)
【世界遺産】
- モスクワの北北東80kmの町セルギエフ・ポサート (Сергиев Посад / Sergiyev Posad)にある修道院です。
1345年に聖セルギエフが創建したロシア正教の総本山で、16世紀に築かれた周囲1kmの城壁の中に多くの教会が建てられています。当時はモンゴルの侵略に対する防衛要塞の役割も担っていました。
中央にある1585年完成で、黄金のネギ坊主形のキューポラの塔の周りに4つの青いキューポラを持つ「ウスペンスキー聖堂 (Успенский Собор / Assumption Cathedral)」、1423年建造で聖セルギエフの遺体を安置する「トロイツキー聖堂 (Троицкий Собор / Trinity Cathedral)」の他、18世紀の鐘楼などいくつも見所があります。
なお、セルギエフ・ポサートはロシア名物のマトリョーシカ人形の生産地としても有名です。
- ペレスラブリ・ザレスキー (Переславль-Залесский / Pereslavl'-Zalessky)
- セルギエフ・ポサートの北東70kmにある町で、北西にプレシチェボ湖 (Плещеево Озеро / Lake Pleshcheyevo)があります。
1152年に造られた町で、15世紀まで何度もモンゴルの襲来を受け、その後も近隣諸国の攻撃を受けた歴史があります。
町の建設時に造られた「スパソ・プレオブランジェスキー聖堂 (Спасо-Преображенский Собор / Spaso-Preobrazhensky Cathedral)」をはじめ、18世紀までの教会や修道院が点在します。
- ウラジーミル (Владимир / Vladimir)【世界遺産】
- モスクワの東北東200kmにある人口30万人ほどの町です。10世紀にキエフ公国領の城塞都市として建設され、1157年にウラジーミル公国の首都となりました。
町の西にはかつての市街の入り口で12世紀に造られた「黄金の門 (Золотые Ворота / Golden Gate)」、1158年創建でモスクワの同名の教会の手本となった「ウスペンスキー聖堂 (Успенский Собор / Assumption Cathedral)」、1197年創建の「聖ドミトリアス聖堂 (Дмитриевский Собор / St. Demetrius Cathedral)」などが見所です。
- ポクロフ・ナ・ネルリ教会 (Церковь Покрова на Нерли / Church of Intercession upon Nerl)【世界遺産】
- ウラジーミルの北東10kmの小さな町ボゴリューボボ (Боголюбово / Bogolyubovo) にある教会です。
ネルリ川の中州に1165年に建てられたもので、周囲は何もない原野に瀟洒な白い建物があります。
川に浮かぶように見える美しい姿は「ロシア建築の白鳥」といわれ、ウラジーミルの建築物とあわせて世界遺産に登録されています。
- スズダリ (Суздаль / Suzdal')【世界遺産】
- ウラジーミルの北40kmにある人口1万2千人の町です。12世紀にはロストフ・スズダリ公国の首都で、市場町としても栄えました。
50を超える教会や修道院が小さな町に建てられ、現在もその多くが残り、中世ロシアの町の原風景が残されています。
主なものは、14世紀に要塞の役目も担った「スパソ・エフフィミエフ修道院(Спасо-Евфимиев Монастырь / St.Euthymius Monastery)」、1364年創建の女子修道院「ポクロフスキー修道院(Покровский Монастырь / Pokrovsky Monastery)」などで、町の南の要塞「クレムリン(Кремль / Kremlin)」の中には「ロジェストベンスキー教会(Рождественский Собор / Nativity Cathedral)」があります。
「クレムリン」近くには「木造建築博物館 (Музей Деревянного Зодчества / Wooden Architecture Museum)」もあります。
- ヤロスラブリ (Ярославль / Yaroslavl')【世界遺産】
- モスクワの北東280km、ボルガ川沿いにある人口60万人の工業都市です。
1010年に城塞が建設されたのが始まりといわれ、13〜15世紀はタタール人の支配を受けましたが、その後16〜17世紀には港湾都市として栄え、商人たちが競ってモスクワ以上の寺院を建立しました。
歴史地区が世界遺産に登録されており、12世紀創建の「スパソ・プレオブラジェンスキー修道院 (Спасо-Преображенский Монастырь / Spaso-Preobrazhensky Monstery)」や、17世紀に建設されフレスコ画が有名な「預言者イリヤ寺院(Церковь Ильи Пророка / Church of the Prophet Eliah)」などの見所があります。
ロシアの観光地