ウィーン周辺(オーストリアの観光地 1)
ウィーン (Wien) は、オーストリア北東部、ドナウ川沿いにある人口170万人の首都です。
13世紀から第一次大戦後の1918年まで、ヨーロッパに君臨したハプスブルク家の都で、華やかな貴族文化が栄えました。
その間、宮廷音楽が発展してモーツァルトやベートーベンが活躍し、さらに近代から現代にいたるまでクラシック音楽の都となっています。
ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」というワルツがウィーンの象徴のようになっていますが、19世紀の治水工事でドナウ川の本流は町の北東部を流れるようになり、旧市街で見られるのは支流の「ドナウ運河 (Donaukanal)」です。
また市街の西方には広大な「ウィーンの森 (Wienerwald)」が広がっています。
旧市街 (Altstadt) は、ウィーンの中心部、ドナウ川支流のドナウ運河の南側の地域です。
かつて市を囲む城壁と濠があったところは4kmの環状道路「リング (Ring)」となり、その内側が旧市街となっています。
主な歴史的建造物はこの地域に集中しており、歴史地区として世界遺産に登録されています。
なお市名は現地語では「ヴィーン」と発音し、英語では変形されて "Vienna(ヴィエナ)" です。
ウィーン旧市街
- シュテファン大寺院 (Stephansdom) 【世界遺産】
- 旧市街の中心にある大聖堂で、ウィーンのシンボルです。
12世紀中頃にロマネスク様式で着工し、14世紀にゴシック様式で建設されて1511年に完成したものです。
国内最大の規模で、高さ61mの北塔と、市民に「シュテッフル (Steffl)」の愛称で親しまれている高さ137mの南塔の2つの尖塔が特徴です。
- ハース・ハウス (Haas Haus)
- シュテファン大寺院の西向かいにある1990年に完成したビルです。ミラーガラス張りの曲面を多く使った現代建築で、店舗や事務所が入っています。
大聖堂が建つ旧市街の中心のため、建設当初は大きな非難を浴びましたが、今では新しいウィーンの顔として定着しつつあります。
- ペスト記念柱 (Pestsäule) 【世界遺産】
- ハース・ハウスから北西に延びる目抜き通り「グラーベン (Graben)」沿いにある、彫像が刻まれたバロック様式の大理石の柱です。
1679年にウィーンでペストが発生し、皇帝レオポルト1世がその終息を願って造ったものです。
宗教的テーマが三面に彫られた台座の上に、天・地・地獄という「三位一体」の彫刻塔が載っています。
- ペーター教会 (Peterskirche) 【世界遺産】
- グラーベンの東にある教会です。
8世紀頃の創建といわれるウィーンで最古の教会の一つで、13世紀にロマネスク様式、18世紀にバロック様式に改築されています。
内部には豪華な祭壇やフレスコ画があります。
- モーツァルト・ハウス (Mozarthaus)【世界遺産】
- シュテファン大寺院の南東にある作曲家モーツァルトが住んだ家です。
ウィーンで転々と住居を変えた中でここが現存する唯一の場所で、28歳から4年ほど住み、歌劇の代表作「フィガロの結婚」をはじめ円熟期の作品を数多く残しています。
抜本的な改修工事が行われ、2006年1月から再公開されています。
- アンカー時計 (Ankeruhr) 【世界遺産】
- シュテファン大寺院の北、ウィーン最古の広場「ホーアー・マルクト (Hoher Markt)」にある仕掛け時計です。
小路に向かい合う建物の空中回廊に1913年に設置されたもので、12人のウィーンゆかりの人物の人形が毎時報に交代で登場し、正午にはすべての人形がパレードするようになっています。
- ホーフブルク(王宮) (Hofburg) 【世界遺産】
- シュテファン大寺院の西0.5kmにある、14世紀から1918年までハプスブルク家の居城だった広大な宮殿です。
長い期間に拡張し続けたため多岐にわたる建築様式があり、18のウィングに2600余の部屋があります。
「スイス宮 (Schweizerhof)」は現存する最古の13世紀の建物で、旧王宮の中心にあり、その周りに15世紀の「王宮礼拝堂 (Burgkapelle)」や16世紀の「アマリア宮 (Amalienburg)」、17世紀の「レオポルト宮 (Leopoldinische Trakt)」があります。
ハプスブルク家の財宝を展示する「宝物館 (Schatzkammer)」や豪華な内装の「国立図書館 (Natioanalbibliothek)」も隣接します。
旧王宮の南側には1913年に完成した壮大な「新王宮 (Neue Hofburg)」があり、内部にはいくつもの博物館になっています。
北西側に「英雄広場 (Heldenplatz)」、南西側に「王宮庭園 (Burggarten)」が広がります。
旧王宮の西側の16世紀の「厩宮(Stallburg)」はウィーン屈指のルネサンス建築で、内部に冬季の乗馬学校だった「スペイン乗馬学校 (Spanische Reitschule)」があります。
なお王宮礼拝堂では夏季を除いて毎週日曜日の午前のミサでウィーン少年合唱団の歌声を聴くことができます。
- アルベルティーナ美術館 (Albertina) 【世界遺産】
- ホーブブルクの南東に隣接する美術館です。1776年創設で、中世の巨匠の絵画から現代アートまで幅広い作品を展示しています。
2003年に抜本的な改修を行って、最先端技術を使った美術館となっています。
- 美術史博物館 (Kunsthistorisches Museum) 【世界遺産】
- ホーフブルクの南西側、リングをはさんだ向かいにある美術館です。
歴代のハプスブルク家が収集した美術品約7千点を収蔵するヨーロッパ屈指の美術館で、建物も1891年に完成したルネサンス様式の美しいものです。
ブリューゲル、デューラー、ルーベンスなどの名作が揃っています。
- 自然史博物館 (Naturhistorisches Museum) (【世界遺産】
- 美術史博物館とマリア・テレジア広場 (Maria Theresien Platz)をはさんだ向かいに建つルネサンス様式の博物館です。
1889年の開館で、化石や鉱物、骨格標本など幅広い展示があります。
3万年前の石灰岩の女性像「ビレンドルフのビーナス」や、ニュージーランドの絶滅鳥モアの化石などが見ものです。
- 国会議事堂 (Parlament) 【世界遺産】
- ホーフブルクの西、リング沿いにある1883年完成の議事堂です。正面がギリシャ神殿風で、アテネの泉があり知恵の女神が建っています。
楽友協会や証券取引所なども手がけたテオフィル・ハンセンの設計です。
ガイドツアーで見学ができます。
- ブルク劇場 (Burgtheater) 【世界遺産】
- ホーフブルクの北西にある劇場です。1888年に完成したルネサンス様式の建物ですが、第二次大戦で破損し1955年に再建されました。
ヨーロッパでも第一級の劇場で、古典演劇を中心に上演がされています。
ホールの「階段の間」の天井画はクリムト兄弟の作です。
- 市庁舎 (Rathaus) 【世界遺産】
- ブルク劇場の西にあるネオ・ゴシック様式の建物です。1883年の完成で、高さ98mの中央塔を中心に高さ60mの4本の塔があります。
美しい中庭の「アルカーデンホーフ (Arkadenhof)」では夏にコンサートが開かれます。ガイドツアーで見学ができます。
- ウィーン国立歌劇場(国立オペラ座) (Staatsoper) 【世界遺産】
- ホーフブルクの南東、リング沿いにあるオペラ劇場です。
1869年創建のスネサンス様式の建物で、際二次大戦の戦火を受けて1955年に再建されました。世界最高レベルの音響設備を持っています。
2002年から2010年まで、日本の小澤征爾が音楽監督を務めました。
- ケルントナー通り (Kärntnerstraße) 【世界遺産】
- シュテファン大寺院から国立オペラ座の前を通る、南北に走る目抜き通りで、ホテルやレストラン、ショップが建ち並んでいます。
国立オペラ座のそばにあるホテル・ザッハは、創始者が考案したチョコレートケーキ「ザッハトルテ」で有名です。
- 楽友協会 (Musikverein)【世界遺産】
- 国立オペラ座の南東0.5kmにあるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地のホールです。
1869年の創建で、大ホールの「黄金の間」では定期演奏会の他、元旦のニュー・イヤー・コンサートが開かれます。
定期演奏会は先祖代々の会員が席を手放さないのでチケットはなく、その他の特別公演もすぐ売り切れになって入手は非常に困難です。
内部の見学ツアーがあります。
- カール教会 (Karlskirche) 【世界遺産】
- 楽友協会の南にある1739年創建の教会です。
1713年のペスト大流行の際に当時の皇帝カール6世が聖人カール・ボロメウスに終息を願ったところ、翌年に終息したため早速建設を開始し、自分の名と聖人の名の同じ「カール」を命名したということです。
高さ72mのドームはバチカンのサン・ピエトロ寺院を、高さ33mの2本の大円柱はローマのトラヤヌス記念柱を模したといわれています。
- 音楽の家 (Haus der Musik) 【世界遺産】
- 楽友協会の北0.4kmにある博物館です。
4階建ての建物はかつて宮殿にもなったもので、ウィーン・フィル創設者のオットー・ニコライが住み、音楽大学が置かれたこともあります。
2階はウィーン・フィルの博物館、3階は音や音楽に関する科学的な博物館、4階は大作曲家を紹介する博物館です。
ウィーン・フィルをバーチャルに指揮することができるコーナーもあります。
- 市立公園 (Stadtpark)【世界遺産】
- シュテファン大聖堂の南東0.5km、リング沿いにある公園です。
園内をウィーン川 (Wien Fluss) が流れる市民の憩いの場で、バイオリンを弾くヨハン・シュトラウスの像が有名です。
この他にシューベルトやブルックナーの像もあります。
旧市街の周辺
- ミュージアム・クオーター・ウィーン (Museumsquartier Wien)
- 美術史博物館のあるマリア・テレジア広場の南西側にある、大規模な複合文化施設です。
6万uの敷地に「レオポルト美術館 (Leopold Museum)」や「現代美術館・ルートビッヒ・コレクション・ウィーン (MUMOK)」のほか、イベント・ホール、専門店やカフェなどがある現代的な文化エリアとなっています。
- フンデルトバッサー・ハウス (Hundertwasser Haus)
- 市立公園の西北西1kmにある1986年完成の市営住宅です。
建築家フンデルトバッサーが設計したアパートで、直線を排除し、ブロックごとに色が塗り分けられたカラフルなものです。
入居者がいるため内部見学はできませんが、ユニークな建築で一躍観光名所になったものです。
- ベルベデーレ宮殿 (Schloss Belvedere)
- カール教会の南東1kmにあるバロック様式の宮殿です。
17世紀の対トルコ戦争の英雄オイゲン公の夏の離宮で、2つの宮殿から成っています。
住居用に1716年に造られた「下宮」はバロックの美術品を展示する「バロック美術館
(Barockmuseum)」となっており、レセプション用に1723年に造られた「上宮」は19〜20世紀の絵画を展示する「オーストリア・ギャラリー
(Österreichische Galerie Belvedere)」となっています。
両宮殿の間には緩やかに傾斜した広大なバロック庭園が広がっています。
- リヒテンシュタイン美術館 (Liechtenstein Museum)
- ホーフブルクの北2.5kmにある2004年に開館の美術館です。
17世紀のバロック様式の建物に、16世紀以後にリヒテンシュタイン家の歴代公爵が収集した美術品を展示しています。
世界最大級のルーベンス絵画のコレクションをはじめとする中世絵画や、彫刻、家具、装飾馬車まで幅広い作品があります。
- フォルクスオーパー (Volksoper)
- リヒテンシュタイン美術館の西0.5kmにある国立劇場です。
1898年創立で、オペレッタやミュージカルなどを上演し、国立オペラ座に比べて庶民的な劇場になっています。
- シューベルトの生家 (Schubert Geburtshaus)
- フォルクスオーパーの南東0.3kmにある、大作曲家シューベルトが1797年に生まれて4歳まで過ごした家です。
肖像画や本人が弾いたギター、トレードマークの眼鏡も展示されています。
- ごみ焼却場 (Fernheizwerk Spittelau)
- フォルクスオーパーの北東2km、ドナウ運河沿いにあるウィーン市のごみ焼却場です。
外観デザインをフンデルトバッサーが手がけ、色彩豊かなお城のような建物で、球体を使った煙突もユニークです。
1992年竣工で、ダイオキシンの発生を抑え、周辺の暖房の熱源にもなっています。
なお彼のデザインは大阪市のごみ焼却場も手がけています。
- ヨハン・シュトラウス記念館 (Johann-Strauss-Gedenkstätte)
- 旧市街の北東、ドナウ運河の北側にある、ワルツ王ヨハン・シュトラウスが38歳の1863年から7年間住んだ家です。
当時の調度品や楽器、愛用品などの他、写真や資料が展示されています。
- アウガルテン (Augarten)
- 旧市街の北2km、ドナウ運河の東にある公園です。1775年にヨーゼフ2世が皇帝の庭園を市民に開放したものです。
1718年にマイセンに次ぐ第2の磁器工房があった地でもあり、「アウガルテン宮殿 (Schloss Augarten)」には工房とショールームがあります。
また宮殿はウィーン少年合唱団が寄宿生活を送っている場所としても有名です
- プラーター (Prater)
- 旧市街の東3km、ドナウ運河とドナウ川にはさまれた地域にある6kuに及ぶ広大な緑地です。
かつては王室の狩猟場でしたが、1766年に市民に開放されてます。
地域内には見本市会場や競馬場、遊園地などがあり、大観覧車は映画「第三の男」にも登場しています。
- シェーンブルン宮殿 (Schloss Schönbrunn) 【世界遺産】
- 旧市街の南西5kmにあるハプスブルク家の夏の離宮です。
1713年にレオポルト1世がベルサイユ宮殿に対抗して建造したもので、国内最大のバロック建築です。
内装はマリア・テレジア時代にロココ様式の豪華なものに改装され、1441の部屋のうち40室ほどが公開されています。
6歳のモーツァルトが御前演奏をした「鏡の間」や、1815年のウィーン会議で舞踏会が行われた「大広間」などが見所です。
広大な敷地にはバロック庭園や「美しい泉」の命名の由来の泉をはじめ、動物園や植物園などがあります。
宮殿に向かい合う丘の上には、グロリエッテ (Gloriette) という対プロイセン戦の勝利と戦没者の慰霊の為に立てたギリシャ建築の記念碑があり、現在はカフェになっています。ここからは敷地が一望できます。
- 中央墓地 (Zentralfriedhof)
- 旧市街の南東10kmにある、広さ2kuの墓地です。1873年に急増する人口に対応してフランツ・ヨゼフ帝が造成したものです。
400万人が眠っているといわれ、「第32区A」という区画に、モーツァルト、ベートーベン、シューベルト、ブラームスなど大作曲家たちの墓があります。
映画「第三の男」のラストシーンはここの並木道が映されています。
ウィーンの森
- グリンツィング (Grinzing)
- 旧市街の北北西7kmにある村です。
ブドウ畑が広がる中、「ホイリゲ (Heurige)」と呼ぶその年の自家製ワインの新酒を飲ませる居酒屋が集まっていることで有名です。
- ハイリゲンシュタット (Heiligenstadt)
- グリンツィングの東1kmの地区です。大作曲家ベートーベンがたびたび訪れた地で、彼ゆかりのスポットがあちこちに残っています。
「田園交響曲を書いた家 (Beethoven Sommerwohnung)」や自殺を考えて遺書を書いた「遺書の家 (Heiligenstädter Testament Haus)」の他、田園交響曲で描写した小川に沿う「ベートーベンの散歩道 (Beethovengang)」などが主なスポットです。
- カーレンベルク (Kahlenberg)
- グリンツィングの北西2.5kmにある標高484mの山で、ウィーンの森の北東端にあたります。
東にはドナウ川、南にウィーン市街が見渡せる展望台があります。
1683年のトルコ軍侵攻の際に、オーストリア、ポーランド連合軍が集結し、総攻撃を開始した地です。
東1kmにはドナウ川間近にそびえる標高425mの「レオポルツベルク (Leopoldsberg)」があり道路がつながっています。
- ゼーグロッテ (Seegrotte)
- 旧市街の南西20kmの町ヒンターブリュール (Hinterbrühl) にある地底湖です。
かつて石膏が採掘されていたところに1912年の洪水で湖ができたものです。地下60mのところに6200uの広さがあり、ボートで遊覧ができます。
第二次大戦中には世界初のジェット機の組立工場になった場所でもあります。
- ハイリゲンクロイツ (Heiligenkreuz)
- 旧市街の南西30kmにある町です。
国内最古の1133年に設立されたシトー派の修道院があり、キリストの磔刑に用いられたという十字架の聖遺物が保管されているといわれます。
町の名は「聖なる十字架」の意です。
- マイヤーリング (Mayerling)
- ハイリゲンクロイツの南西3kmにある町です。
ハプスブルグ家のルドルフ皇太子が1889年に男爵令嬢マリア・ヴェッツェラと謎の心中をした狩の館が、修道院として残っています。
ガイドツアーがあります。
- バーデン (Baden)
- 旧市街の南南西30kmにある温泉保養地です。
ローマ時代から利用が始まり、特に中世からは王侯貴族が夏の滞在地として急速に発展しました。
モーツァルトやベートーベンなどの大作曲家にも愛され、ベートーベン晩年の第9交響曲はここで主に作曲されています。
町には温泉施設やホテル、カジノなどもあります
オーストリアの観光地